「育児が始まってから手首が痛い」
「子どもを抱っこすると手首に違和感がある」
「指も手首も痛い。子育ての影響かな…」
このように、子育てをしている母親の中には、手首や指の痛みに悩まされている方も多いのではないでしょうか。
育児は多くの喜びをもたらす一方で、母親のからだにかかる負担は少なくありません。
育児期間中は子どもの抱っこやおんぶ、夜中の授乳、数時間おきのおむつ替えなど、母親のからだには毎日繰り返す動作をとおして無意識にも負荷がかかっています。
そして、育児中に感じる指や手首の痛みは腱鞘炎の可能性が高く、放置しておくと悪化するおそれがあります。
日本助産学会誌に掲載されている産後の女性を対象とした手や手首に関する研究では、3人に1人が手や手首の痛みを経験しているという報告があります。
この記事を読むと、育児と腱鞘炎との関連性がわかり、具体的な対応方法も身につきます。
本記事では、育児による腱鞘炎の症状と原因を詳しく解説し、痛みを軽減する方法について紹介します。
育児期間中の腱鞘炎に悩んでいる方は、ぜひご参考ください。
1章:育児中に生じる腱鞘炎4つの原因
腱鞘炎の原因は、手の使いすぎです。
特定の部位を使いすぎると、筋肉につながっている腱(けん)と腱を覆っている腱鞘(けんしょう)が反復して擦れ合い炎症が生じます。
本来、腱を滑らかに動かすための役割を持つ腱鞘に過度な負担が生じると、痛みや腫れ、こわばりなどが出現します。
とくに、育児中に腱鞘炎を発症し、手首や指の痛みの痛みに悩まれる方も少なくありません。
育児中に生じる腱鞘炎の原因は、以下のとおりです。
- 子どものお世話
- 育児に関わる家事全般
- 女性ホルモンの低下
- 筋肉量の少なさ
それぞれ解説します。
1-1 子どものお世話
赤ちゃんや小さなお子さんのお世話では手や手首を頻繁に使うため、腱鞘炎を引き起こしやすくなります。
赤ちゃんの抱っこは、子育て中の親にとって日常的な動作ですが、手首や親指に大きな負担がかかるからです。
頻回な抱っこや長時間にわたる抱っこにより、手首の腱に過度なストレスがかかり、炎症を引き起こす可能性があります。
さらに、成長に伴い子どもの体重が増えると、手首や指にかかる負担も増加し、腱鞘炎のリスクが高まります。
授乳や頻繁なオムツ替え、沐浴など、育児に関連する動作全般が要因といえるでしょう。
具体的には、それぞれの動作において赤ちゃんを支えるため、手首が不自然な角度で固定した状態となり、手首や指の腱に負荷がかかるからです。
育児世代の母親にとって子どもの世話は欠かせませんが、指や手首に大きな負担がかかる点は認識しておきましょう。
1-2 育児に関わる家事全般
育児に関わる膨大な家事から手首や指へ負担がかかり、腱鞘炎が生じる可能性があります。
家事動作は繰り返し動作が多いため、特定の筋肉や腱に負担が集中しやすいからです。
さらに育児中は、ミルクの吐き戻しやオムツ漏れなどで洗濯物が増えたり、食べこぼしを掃除したりなど育児に関する家事が増える傾向にあります。
以上のような育児に伴う家事全般は、同じ動作の繰り返しが多いです。
子どもの誕生や成長に合わせて、増える家事も腱鞘炎の原因につながると理解しておきましょう。
1-3 女性ホルモンの低下
女性ホルモンの低下も腱鞘炎を引き起こす原因の一つです。
出産後、女性はホルモンバランスの変化により心身にさまざまな不調をきたす場合があり、腱や靱帯への影響も受けるからです。
女性ホルモンにはエストロゲンとプロゲステロンの2つがあり、このホルモンは妊娠・出産
・授乳の過程で重要な役割を果たします。
しかし、出産後には、2つの女性ホルモンの分泌が急激に減少し、からだにさまざまな影響を与えるだけでなく、腱や靭帯にも影響を及ぼします。
とくに、エストロゲンは、腱や靭帯の状態を保つために必要なホルモンです。
エストロゲンが減少すると、腱や靭帯の柔軟性が低下し、炎症や損傷が起こりやすくなります。
また、ホルモンバランスの変化により、からだ全体の回復力が低下するため、炎症や傷の治りが遅くなりかねません。
参考:出産後のドケルバン病・手根管症候群に対する当帰芍薬散での治療経験 2019
1-4 筋肉量の少なさ
筋肉量が少ない部位は、繰り返しの動作により腱や関節に直接的な負担がかかり、腱鞘炎が起こりやすくなります。
とくに、手首は人体のなかでも筋肉量が少ない部位です。
育児中には無意識に手や手首を酷使してしまうため、腱鞘炎の原因となります。
さらに、産後女性の手や手首の痛みに関する研究によれば、筋肉量が少ない中年以降の女性や周産期の女性に腱鞘炎の発症率が高いと報告されています。
育児中の女性は、抱っこや授乳などの動作を頻繁に行うため、手首への負担が増え、腱鞘炎のリスクが高まります。
筋肉量が少ない部位に対しては、より適切なケアと休息が必要といえるでしょう。
2章:腱鞘炎が悪化・長期化した場合の問題点
腱鞘炎が悪化・長期化した場合には、さまざまな問題が生じます。
とくに、痛みを自覚しているにもかかわらず、なにも対策をしないと症状が悪化するだけではなく、違う場所に痛みが出現してしまいかねません。
腱鞘炎が悪化・長期化した場合の問題点は、以下のとおりです。
- ばね指やドケルバン病につながってしまう
- ほかの関節部にも痛みがでてしまう
- 育児が負担に感じてしまう
- 家事をするのが億劫になってしまう
以下で詳しく説明しますので、ご参考ください。
2-1 ばね指やドケルバン病につながってしまう
痛みや動かしづらさを伴う腱鞘炎を放置していると「ばね指」や「ドケルバン病」へとつながる危険性があります。
ばね指は、指を曲げ伸ばしする際に、まるでばねが弾けたようにカクンと勢いよく動く状態です。
長い間そのまましておくと次第に指が曲がったまま動かなくなり、関節が固まってしまいかねません。
ばね指は、指を動かす筋肉の腱が炎症により肥大し腱鞘部分が引っかかるために生じます。
ドケルバン病は、手首の親指側に生じる腱鞘炎の一種です。
病態としては、手首を通って親指へとつながる腱とその周囲の腱鞘に炎症が起こった状態で、手首を動かしたり親指を広げたりすると手首の親指側に強い痛みや腫れが生じます。
おもに、親指を伸ばす筋肉(短母指伸筋:たんぼししんきん)と親指を広げる筋肉(長母指外転筋:ちょうぼししんきん)が通るところに生じるとされています。
腱鞘炎による痛みや違和感をそのままにしていると、ばね指やドケルバン病へとつながる可能性が高まるため、早い段階での対処を心がけましょう。
参考:ばね指 日本整形外科学会参考:ドケルバン病 日本整形外科学会
2-2 ほかの関節部にも痛みがでてしまう
手首や指の腱鞘炎が原因で、ほかの関節部にも痛みが出てしまう可能性があります。
子育てや日々の生活で行う家事は、手を用いて行う作業が欠かせません。
痛みを庇かばった動きは、普段とは違う動きや力の入れ方となるため、ほかの関節部には大きな負担です。
手首や指に腱鞘炎の症状があるときに、育児や家事で反復した手作業を行うと、痛みを避けようとして無意識に他の筋肉や関節を使って動作を行おうとします。
手首に痛みがあるときは、普段はなにも気にせずに持っている掃除機も重く感じます。
そのような状態で、掃除機をかけようとすると普段はそれほど力のいらない肘や肩などにも過度に力が入ってしまい疲労感や痛みへとつながりかねません。
痛みを庇って動作を続けてしまうと、普段は使われない部位へ負担がかかり、二次的な炎症や痛みを生じやすくなるため注意が必要です。
2-3 育児が負担に感じてしまう
腱鞘炎が悪化すると、次第に育児を負担に感じてしまいます。
とくに、子どもが小さい頃の育児期間は、赤ちゃんの抱っこや授乳、おむつ替えなど、手を頻繁に使う動作が必要です。
手首や指に痛みが生じる腱鞘炎では、日常的な育児活動が困難になり負担と感じてしまうかもしれません。
さらに、腱鞘炎がひどくなると夜間にも痛みが出現するため、睡眠不足を引き起こしかねません。
睡眠不足や腱鞘炎の長期化は、精神的な負担が増え、育児への意欲が低下する可能性があります。
赤ちゃんとの触れ合いやスキンシップが減少すると、愛情形成や信頼関係の構築へも影響を与えます。
こういった問題を防ぐためには、早い段階からの適切な対策が重要となるでしょう。
2-4 家事をするのが億劫になってしまう
腱鞘炎が悪化・長期化すると、家事をこなすのが億劫になりかねません。
手首や指の痛みが強くなると、料理、洗濯、掃除などの日常的な家事が難しいと感じるようになるからです。
たとえば、包丁を握って食材を切る作業や掃除機をかける動作は、手に痛みが出やすく、重荷に感じるでしょう。
思うように家事をこなせなくなると、家庭内の雰囲気や関係性にも悪影響を及ぼしかねません。
家族の協力を得たり、家事の方法を見直したりと早い段階から対策できれば、腱鞘炎の悪化を防ぐだけでなく、日常生活の質の維持にもつながるでしょう。
3章:育児中の腱鞘炎を改善する7つの方法
育児中の腱鞘炎を軽減するためには、いくつかの効果的な方法があります。
- 抱っこの仕方を工夫する
- 授乳の仕方を工夫する
- 沐浴の仕方を工夫する
- 意識的に手首や指を休める
- 無理のない範囲でストレッチをする
- テーピングやサポーターを使用する
それぞれ以下で詳しく解説します。
3-1 抱っこの仕方を工夫する
育児による腱鞘炎の痛みを軽減するためには、抱っこの仕方を工夫しましょう。
赤ちゃんを抱っこする際は、片手に過度な負担をかけず、両手で支えるようにします。
その際に、赤ちゃんをできるだけ自分のからだに近づけると、手首への負担を軽減できます。
また抱っこひもの使用は手の負担を減らしてくれるため、長時間の抱っこも楽になるでしょう。
2、3歳の比較的大きなお子さんの場合、抱っこの方法の工夫だけでは痛みを軽減しづらいため、後述するストレッチやサポーターもご検討ください。
3-2 授乳の仕方を工夫する
授乳の方法や姿勢を見直す必要もあります。
もっとも良い方法は、授乳クッションの活用です。
授乳クッションを用いれば、赤ちゃんを楽に抱え、手首や腕への負担を減らせます。
抱っこのまま行う場合は、腕で赤ちゃんの頭をしっかり支え、手首に負担がかからないようにしましょう。
椅子やソファーでは、深く腰掛け、背もたれに寄りかかれば、赤ちゃんを支える筋肉の負担が軽減されます。
適切な方法や姿勢で授乳する習慣を身につけ、腱鞘炎の症状を和らげていきましょう。
3-3 沐浴の仕方を工夫する
赤ちゃんの沐浴時にも、手首や指に負担がかかります。
とくに、沐浴をしている間はずっと赤ちゃんの頭を支えているため、手首へ負担がかかりがちです。
そのような場合には、ベビーバスネットや膨らますタイプのベビーバスなどの活用がおすすめです。
バスネットを使うと、赤ちゃんをネットに預けられ、親が両手で赤ちゃんのからだを洗えるため、手首への負担を大幅に減らせます。
膨らますタイプのベビーバスは、全体がやわらかいため、多少手や足がぶつかっても焦らずに対応できます。
赤ちゃんの頭を置く場所が高くなっているため、多少であれば頭を支えた手を預けられます。
このようなアイテムをうまく取り入れて、腱鞘炎の予防をしながら赤ちゃんの沐浴を行いましょう。
3-4 意識的に手首や指を休める
腱鞘炎の症状を軽減するためには、安静がもっとも重要とされています。
しかし、家事や育児に追われていると、まとまった休憩を取れない方も少なくありません。
家事や育児の合間に短い時間でも休憩が取れた際には、意識的にスマホの使用は避け、手首や指をリラックスさせる時間を儲けましょう。
とくに、痛みが強いときには、無理をせずに休む必要があります。
家族をはじめとする身近な人のサポートを得られれば、積極的に家事や育児の役割分担を行いましょう。
休憩中には、無理のない範囲で手首や指のストレッチをするのも効果的です。
3-5 無理のない範囲でストレッチをする
無理のない範囲でのストレッチも、腱鞘炎の痛みを予防・軽減するのに効果的です。
腱鞘炎に対するストレッチは、筋肉や腱をじんわりと持続的に伸ばす方法が望ましいです。
手首のストレッチは、人差し指から小指までを掴み、反動をつけずに10〜20秒ほど反らせてください。
指のストレッチは、テーブルに手のひらをのせて指を1本ずつ、手の甲の方へゆっくり反らせてください。
どちらのストレッチも痛みが強まらない範囲で、じんわりと伸ばすように行いましょう。
しかし、やりすぎにはご注意ください。
腱鞘炎を改善するためには、安静がもっとも有効とされています。
日常生活では反復した動きで手首や指に負担がかかりすぎないように注意する必要があります。
ご自身でストレッチを行う際にも、素早い動きで過度に反復して行ってはいけません。
家事や育児の合間に、ゆっくりと手首や指のストレッチを取り入れてみましょう。
3-6 テーピングや サポーターを使用する
前述したとおり、腱鞘炎を改善するには、安静が重要です。
安静というと全く動かさないというイメージがあるかもしれませんが、テーピングやサポーターを用いて、関節の動きを制限する方法も有効です。
たとえば、手首に症状がある場合、テーピングは以下の写真のように巻きましょう。
写真
市販のサポーターを使用する場合、手首用だけでもかたちや種類は多岐にわたります。
テーピングとサポーターともに、使用する目的は、多方向に動く手首の動きを抑えるためです。
腱鞘炎による痛みがある部位の動きを制限できれば、痛みを和らげるだけでなく、悪化を予防できる可能性が高まります。
市販のものを自分で購入して使う際には、肌に合ってるか、締め付けが強すぎないかなどをご確認ください。
3-7 医療機関を受診する
腱鞘炎の症状が改善しない場合や、痛みが強い場合は、医療機関への早めの受診をおすすめします。
早い段階で専門の医師に相談できれば、症状が悪化する前に適切な治療法を受けられます。
治療方法は症状の程度によっていくつかの選択肢があり、薬物療法やリハビリテーション、場合によっては手術が必要なケースもあります。
早期に治療を開始できれば、症状の悪化を防ぎ、育児や家事の負担を減らせるでしょう。
腱鞘炎の症状がひどくなる前に早め受診を
腱鞘炎の症状が現れたら、医療機関への早めの受診が重要です。
初期症状には手首や指の痛み、腫れ、こわばりなどがあります。
これらの症状を無視すると、腱鞘炎が悪化し、日常生活や育児に大きな支障をきたす場合も少なくありません。
医療機関では、専門の医師が適切な診断を行い、症状に合った治療法を提案してくれます。
早期の治療は、症状の悪化を防ぎ、回復を早めるためにも重要です。
また、医師の指示のもとで行うリハビリテーションやセルフケアも効果的です。
とく、育児中は忙しく、時間が取れないかもしれませんが、腱鞘炎の治療を怠ると、さらに大きな負担へとつながりかねません。
育児を続けながらも、症状を軽減できる可能性が高まるため、早い段階から医療機関への相談も検討しましょう。
「腱鞘炎」と「育児」には関連性あり、負担を減らすセルフケアが重要
腱鞘炎は育児と密接に関連しています。
子どもが小さいうちの育児では、赤ちゃんを抱っこする、授乳する、沐浴させるなどの動作が頻繁に行われるため、手首や指に負担がかかりやすいです。
一度発症した腱鞘炎が悪化・長期化すると、育児だけでなく家事全般にも支障をきたし、生活の質が低下する可能性があります。
腱鞘炎の症状を軽減するためには、日常生活の中でのセルフケアは欠かせません。
たとえば、抱っこの仕方や授乳の姿勢を工夫する、沐浴時にベビーバスやバスネットを活用するなどの工夫が効果的です。
また、無理のない範囲でストレッチをすることも推奨されています。
育児中には難しいかもしれませんが、腱鞘炎でもっとも重要なのが安静です。
テーピングやサポーターを使用すると、痛みのある部位の動きを制限でき負担の軽減へとつながるため、検討してみてもよいでしょう。
ただ、自分ではどうしていいかわからない、痛みが長く続いているなどの状況であれば、症状がひどくなる前に医療機関への受診をおすすめします。